不動産コラム

2024/09/03不動産コラム不動産ニュース解説
不動産と金融工学

前稿で、円キャリートレードによる為替変動と、投資用マンションの価格変動が、おかしくなっている、という指摘をしましたが、案の定、調整が起こりました。ドル円は年初に近い水準に戻りました。この調整過程では、株価の乱高下を伴いました。為替変動と株価の変動について、関連があることは判ります。ただし、為替変動と株価の変動との因果関係は、小生には正直わかりません。

ところで、小生は不動産金融工学会の会員ですが、この学会は、不動産に関する金融工学の応用、あるいは不動産金融を工学的にアプローチする、ことを主な研究テーマにしています。不動産評価における金融工学の応用でよく知られているのは、不動産が、ある種の「コールオプション」的な価値を持つのではないか、不動産の価格は、リアルオプション的価値で定まるのではないか、という考え方です。

どういうことかというと、例えば土地を持っている人が、そこにどのようなものを建てるか、いつ建てるか、いくらぐらいで建てるか、は選択の余地がある。また、何も建てずに放置しておいても、支出が大きいことはなく(固定資産税や近隣対応など、全くゼロではありませんが)、収支はほぼゼロである。という意味で、長期では土地上の建物から収益を得られ、短期ではゼロを下回らない。このことから、その土地を持つことの価値(ある種買手が示す価格)は、コールオプションの価格と捉えられる、というものです。
 これは、更地に限らず、既に建物が建っている不動産でも同様です。誰かに貸すか、自分で使うか(家賃見合いを払わなくて済む)、建替えるか、リフォームするか、といった選択があります。既に誰かに貸されていても同じです。貸し続けるか、立退いてもらう(コストを掛ける)か、制約はありますが選択の余地があります。この選択に期限はなく、いつ選択するかの自由もあります。

この点、不動産の評価手法は、原価法、取引事例比較法、収益還元法の3つのみです(開発法はこれら3手法の応用ですが、中国では4つめの手法と見做されtいます)。いずれの手法も、コールオプション的価値を反映して評価手法を適用することは、かなり難しいと言えます。でずが、不動産の市場参加者はコールオプション的な価値判断で取引を進めているので、評価手法の応用の段階で、あるいは各手法で求められた価格の調整の段階で、コールオプション的価格判断を反映する必要がある、と考えています。

ただし、小生の経験上、金融派生商品(デリバティブ)の価格計量モデルを用いて不動産の評価をしても、あまりうまく行きません。不動産の価格は、上場株式のように日々の価格変動の履歴がわかるわけではありませんし、取引をする人も、とてもモヤっとした価値判断で"見定め"をしているためです。金融派生商品とは異なり、最終的には実需(耐久消費財としての価値)を見て価格判断がなされるため、単に金融商品的な価格モデルを応用しても、説得力のある価格が求まらない、というのが小生の感覚です。

ですが、理論としてリアルオプションの価格形成を理解することは有用であり、不動産の価格判断をする上では必ず念頭に置かなければならない事項だと考えています。

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