不動産コラム

2021/09/12不動産コラム不動産ニュース解説
競売、任意売却、所有者自らの売却、用語に注意

新型コロナウィルス感染拡大による経済活動の制限・停滞から、賞与の減額、残業代の減収、給与カットなどが増え、住宅ローンの返済が滞るケースが増えていると聞きます。
 このとき、住宅ローンを融資している金融機関から、裁判所による不動産競売をかけられ、持主がそれに対応する手段として「任意売却」という手段が使われる機会も増えているようです。
 ですが、この「任意売却」という用語、気を付けて使わないと曲解される恐れがあります。

まず、自分が持っている不動産を自らの意思で自ら見つけた買手に売るのは自由ですから、住宅ローンを借りて買われた自宅を、自分で不動産仲介などを利用して空家として売るのは「任意売却」には当たりません。普通の、中古住宅の流通です。問題は、売却価格が住宅ローンの残債よりも低い場合、差額のローン(借金)について、金融機関は無担保の融資に切り替えざるを得ないので、金融機関としては、売却する価格が不当に廉価でないと確認できないと、抵当権の消除に応じられません(売れない)。そのため、売却を進める段階で、金融機関側に事前相談が必要になります。この手続きが、住宅ローンを滞納している債務者の方からすると、不動産競売で貸金の回収をしようとしている金融機関と"交渉"することになるので、「任意売却」と同じと写るようです。売却する価格が住宅ローンの残債よりも高ければ、金融機関は売却に応じない理由はないので、このような"交渉"は生じません。
 「任意売却」という用語の本来の使い方は、債権者である金融機関側が、債権の回収のために抵当権設定されている不動産の買手を見つけ、所有者(あるいは抵当権設定者)と交渉し、持主の「任意で」不動産を売却する、それにより債権者は延滞債権を回収する、という取引です。銀行が不良債権処理に追われた平成10~20年頃に頻繁に行われました。多くは事業性融資の債権で、売却される物件の多くは、自社ビル、賃貸ビル、賃貸マンション、ホテルやゴルフ場などの事業用不動産でした。当時は、こういった物件も不動産競売で処理されることがあり、競売では買手が見つからないような不動産を、金融機関"系"の不動産会社が売却を斡旋し、売買が行われました。
 その後、日本の金融機関の不良債権処理が一巡すると、いわゆる「任意売却」による不動産取引は減り(その必要がほぼなくなった)、住宅ローンの延滞に対応する取引でも「任意売却」という用語が使われるようになりました。リーマンショック後の「モラトリアム」の時期で、平成20年代前半でしょうか。
 
 住宅ローンの延滞の場合、抵当権が設定されている物件は通常、戸建住宅又は区分所有のマンションの一戸ですから、融資している金融機関側は、積極的に買手を探して債権回収を図ろうとはしません。その手間をかけるなら、普通に裁判所による不動産競売で債権回収を図る方が容易なためです。昔と違い、裁判所による不動産競売も、インターネット情報の活用などにより入札者数が増え、一般の不動産流通と変わらない値段で落札される例も見られるようになりました。融資している金融機関が、抵当権を持っている住宅の売却に、積極的に動くことはしなくなったのです。
 このため、住宅ローンを抱えた一般の方々(庶民)が、不動産競売を避けるために自ら買手を探さなければならなくなりました。このことが、通常の中古住宅の流通と、「任意売却」の区別をわかりにくくしているのだと思います。

投資用の不動産ならともかく、自宅を売る、というのは大変なエネルギーと覚悟を要します。そもそも、将来売るつもりで家を買う人は少ないのですから、不本意に自宅を売らざるを得なくなった方に対し、不動産以外の面で寄り添う姿勢が、不動産の専門家には必要なのかもしれません。

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