不動産コラム

2026/03/04不動産コラム不動産ニュース解説
不動産金融工学会の年次総会に出席しました。

先日(2月27日)、日本不動産金融工学会の年次総会に出席しました。その中で、中央大学大学院の石島博先生と東京大学大学院の前田章先生から、「不動産価格評価の一般理論」というタイトルで発表があり、不動産評価を生業とする者として強い関心を持って拝聴しました。翌日にはアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃があり、気持ちが沈んでおりましたが、1週間ほどが経ち、ようやくコメントを記す気持ちになりました。

受講中に気になったのは、収益還元法による収益価格が、取引事例比較法による比準価格や原価法による積算価格と一致したと仮定した場合、想定される収益や利回りはどのような数値になるのか、という点です。すなわち、収益価格が比準価格や積算価格と一致するような収益見通しとして導かれる、概念上の賃料や利回りがどのような水準となるのか、という問題です。

このような数値を求めることは、理論上も実務上も難しいことではなく、PCで計算すれば簡単に算出できます。AIを用いなくても可能であり、20年ほど前から日常的に行っていました。
 実際に計算してみると、首都圏郊外の戸建住宅地であれば、一棟当たり月額300,000円前後、あるいは市場で賃貸可能と想定される賃料水準を前提とした場合の期待利回りは、0.8~1.2%程度といった結果になります。しかし、このような賃料で戸建住宅を貸すことは現実的ではなく、また、このような低利回りを前提として戸建住宅を新築し賃貸に供する投資家も通常は想定しがたいでしょう。したがって、首都圏郊外の住宅地においては、土地残余法による収益価格は十分な説得力を持ちにくい、という結論に至ります。

もちろん、収益還元理論そのものが誤っているわけではありません。仮に、戸建住宅を建てて居住する人の効用関数(u(t))を特定できるのであれば、それを時間選好率(r)によって現在価値に割引く(例えばラプラス変換を用いる)ことで、理論上の収益価格を導くことは可能です。しかし、それはあくまで想定上の数値にすぎません。戸建住宅の居住者の効用や時間選好率を実証的に数値化することが困難である以上、そこから得られる収益価格もまた、概念的な水準に留まらざるを得ません。

ところで、このような想定上の収益価格は、全く無意味と言い切ってよいのでしょうか。月額300,000円の戸建住宅や、利回り1%前後の賃貸投資が、理論上のみならず歴史的にも全く成立し得なかったと断言することはできません。

例えば、日本の1970年代後半から1980年代前半にかけての不動産市場を振り返ると、個人向け住宅ローンの供給主体は住宅金融公庫などの公的金融機関が中心であり、銀行の窓口で「住宅ローンを借りたい」と申し出れば、違和感を持たれる時代でした。また、公団・公社などの公的主体が、銀行金利を下回る投資収益率を前提に、比較的低廉な賃貸住宅を供給していました。財政投融資資金を活用して、民間主体が半公的な住宅供給を行う例も見られました。当時の金利は5%近くでしたので、公的主体を含めれば、金利を下回る収益率で不動産投資(供給)が行われる事例は現実に存在していたと考えられます。

このように考えると、10~20年といった長期的視点に立てば、不動産の売買市場、賃貸市場、金融市場の3市場の間には何らかの裁定メカニズムが作用していると考えるのが自然でしょう。3つの市場から捉えた価格の不均衡を、全く無視してよいとは思われません。
 したがって、当初から実務的な妥当性に限界があると理解しつつも、異なる視点から導かれる価格水準を試算してみること自体には、一定の意義があると考えます。

以上が、学会で聴講した不動産価格理論に関する私見です。

Permanent Link前の記事2026年の記事一覧

TEL:045-222-8757(平日9:30-17:30) 不動産鑑定・土地評価に関するお問い合わせはお気軽に。平日夜・土日はお問い合わせフォームより受け付けます。

Page Top