不動産コラム

2017/09/04不動産コラム
不動産の「類型」

いま、鑑定協会(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会)では、不動産鑑定評価基準の改訂を進めています。内容は主に、農地の鑑定評価についてです。農地を農地のまま使うことを前提に評価する際に、農業収益による土地の価値を把握するルールがいままで明確でなかったため、基準の改正を行う、という方針のようです。地方では、農地を担保に銀行等が農業生産法人に事業資金を融資することが一般的になり、農地の財産価値もしっかり把握できるよう、ルール作りをしているようです。
 
 さて、不動産鑑定評価においては、評価の対象となる不動産の「類型」を明確にすることが定められています。不動産の「類型」とは、「有形的利用及び権利関係の態様に応じて区分される不動産の分類」を言うのですが、簡単に言うと、建物があるかないかとか、自分で使っているか他人に貸しているか、などのタイプ分けです。
 
 この不動産の「類型」ですが、鑑定評価基準では、必ず、①更地、②建付地、③借地権、④底地、⑤区分地上権、⑥自用の建物及びその敷地、⑦貸家及びその敷地、⑧借地権付建物、⑨区分所有建物及びその敷地、のいずれかに分類しなければならず(評価の類型としては「借家権」がありますが、本論からずれるので省略します)、評価人が勝手に新しい類型を考えてはいけないことになっています。この「類型」、鑑定評価の実務上、結構分類が厄介なケースも多くあります。
 
 更地は、簡単に言えば空地や青空駐車場などですが、定義上「建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない"宅地"」とあるので、宅地ではない農地や山林はどうするのか。この辺り、今回の基準改正では、現況農地の評価が多くなることを見据えて、整理されるようです。
 
 次に建付地ですが、実務上建付地の評価をすることはほとんどありません。建付地の評価は「建物等と一体として継続使用することが合理的である場合において、その敷地について部分鑑定評価をするもの」とあり、このような評価をして欲しい、あるいはそうすべき、という依頼がほとんどないためです。強いて言えば、ビルやマンションが建設中の土地の評価でしょうか。この場合、建設中の建物は完成していないので評価できず、かと言って土地に定着物があるので更地と看做すこともできません。そのような場合、土地を建付地"として"評価することになるでしょう。
 
 借地権と底地(借地権の設定された土地の所有権)は文字通りなので省略しますが、借地権のみで土地上に建物のない物件は、ここ数年で借地の整理が進んでいるためか、とても少なくなっています。
 
 区分地上権の代表例はトンネルや地下道ですが、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(平成13年4月施行)が出来て以降、区分地上権の新規設定も減っているためか、区分地上権を鑑定評価する場面も減っています。
 
 自用の建物及びその敷地と貸家及びその敷地は、最も多い評価のタイプで、戸建住宅や自社ビル、貸ビルや賃貸マンションは、これらに分類されます。細かくは「一部自用」とか「一部貸家」などのパターンもありますが、民間の鑑定評価で建物のある物件の評価の依頼は、大体この2つのどちらかに当てはまります。
 
 借地権付建物の定義は「借地権を権原とする建物が存する場合における当該建物及び借地権」とあるのですが、実務上は、結構分類が悩ましい例もあります。
 例えば、親の土地に子どもが家を建てているケース。明確に借地契約を取り交わしている例は少なく、かと言って土地の使用貸借(土地をタダで貸す)契約を交わしている例も多くありません。土地建物一体で抵当に入れている例が多いので、金融機関からの評価依頼では問題が少ないのですが、相続に際して権利が分かれてしまったようなケースは厄介です。
 あるいは、企業のオーナーの土地にその企業の工場が建っているようなケース。土地が借地だという認識は企業側にあるものの、オーナーの死去で企業とオーナー家族に対立が生じたりすると、そもそも借地なのかが争われたり、借地だとしても期限が不明であったり、ややこしい問題が生じます。
 もっと難しい例が、公有地を有償で借りて民間が建物を持っているケース。筆者の遭遇した例では、空港にある航空機格納庫がそうでした。公有財産の使用許可で土地を占有しているので、借地借家法の適用はありません。「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」ではないので、これを"借地権付建物"と看做してよいのか、正直悩みました。
 
 区分所有建物及びその敷地は、典型的な例は中古マンションの一室ですが、共同開発のビルや市街地再開発で建てられた店舗などもあります。
 
 このように、現実の不動産は既存の類型に当てはまらない多くの形体があります。評価人としては都度、どの類型に当てはまるのか、あるいは複合的な類型なのか、判断をしますが、分類の難しい不動産ほど、鑑定評価の依頼を受ける段階での適切なコンサルティング能力が問われます。

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