不動産コラム
- 2025/02/23不動産コラム不動産開発におけるピグー的課税、ピグー的補助金の役割
先日、日本不動産金融工学会の25周年記念大会に出席してきました。
テーマのひとつとして環境経済学に関する講演があり、二酸化炭素の排出制限をはじめとする環境規制や、規制以外の方法で環境対策を図る手法の研究についての話がありました。講演された前田章先生は、「不動産と直接関係のない話で恐縮ですが...」と仰っていましたが、これはまったく関係"アリ"の話なんですよね。
不動産市場は、不動産取引にせよ不動産開発にせよ、強い外部経済と外部不経済の影響を受けます。このことは、以前シンガポールで開催された不動産鑑定士の国際大会で、私(当社代表)が講演した内容でもあります。
外部経済による過少供給には補助金が有効であり、外部不経済による過剰供給には環境課税が有効であることは、1950年代から知られています。市場メカニズムだけでは調整しきれない「外部性」に対応するため、政府が補助金や課税を通じて供給水準を調整する手法が「ピグー的課税・補助金」として知られています。具体的には、外部経済による過少供給に対しては補助金が有効であり、外部不経済による過剰供給に対しては課税が有効とされています。
しかし、不動産市場においては、これらの調整が補助"金"や税"金"ではなく、モノ(代表的なものは土地)を用いて行われるケースが多いと言えます。
外部不経済による過剰供給、すなわち公害に該当するものとして、不動産市場では日照障害や過密/閉塞的な市街環境、乱開発が挙げられます。これを防ぐ手法として、不動産開発の際に、施主や事業主に対し、公共用地や公共施設の提供を求めることが一般的です。日本では具体的には、前面道路の拡幅(42条2項道路など)や公園空間の整備、公開空地の確保、福祉施設など公益施設の設置などが求められます。
一方、外部経済による過少供給については、不動産市場において地域開発の視点で語られます。なにもない土地からインフラを整備する費用を、住宅購入者(すなわち新たに市民になる人)がすべて負担するとなると、その負担に耐えられず住宅を購入できないため、結果として地域開発が進まないという状況が生じます。そこで、インフラ整備の一部を税金で補填することで、民間の住宅開発を促進させる仕組みが導入されています。
この点に関して、どれくらいの"量"の公共空間を整備すれば開発を許可してよいのか(モノによるピグー的課税)、また民間が自律的に不動産開発を行うために(主に地方で)どこまで税金で負担するべきか、といった定量的な"答え"を示すモデルは、いまだ見たことがありません。ただ、これらの施策が妥当であったかどうかを検証する手段はあります。それは、地方公共団体の決算や、その決算について議会でどのような議論がなされたかを分析することです。
今後、不動産開発における外部性の調整手法について、より明確な定量的基準を確立する研究が進むか、注視したいと思います。『お前は自分ではやらんのか?』と言われそうですが、私は研究者ではないので、その"力"がありません。
いずれにしても、今後の都市計画では、環境負荷の低減や住民の生活の質向上を図るために、より戦略的な規制や公有地・公有資産の提供が必要になるでしょう。技術革新によって新たな開発手法が生まれる中、環境経済学の視点を不動産市場に組み込むことで、持続可能な開発が実現できると考えられます。学術的な知見と実務の経験を活かしながら、このテーマについて考えを深めていきたいと思います。